days

スティールヘッドでバンブーロッドの釣りをしてその翌年、旅から帰ると、スペイロッドで感じていた空虚を埋める何かが見つかったかのように竹竿に関する妄想、思考、錯誤が頭の中を占めて、泳ぎ、漂い、混ざり、なんとしてでもバンブーロッドでと思うようになってくる。北米原産の野生のスティールヘッドを狙うのだから、とにかくアメリカのロッドに答えを探してビンテージサイトを訪ね歩き、連日オークションサイトをスクロールする。

ウィンストンでの初回の試行ではロッドの特性からカラダに大きな負担が掛かったことは間違いない。かといって、スペイロッドで遠くに投げることに空ろになり始めていたのだから、バンブーのスペイロッドに置き換えることとはきっと違う。だからシングルハンドのバンブーロッドであることが重要で、そこに集中し、それに拘った。軽装備にすることが目的ではないにしても重装備を感ずるアウトフィットはひとまず避け、シングルハンドが繰り出すフライフィッシングの原風景を視界に近く捕らえられるようしたかった。

そのことを基礎に、まず終日7時から20時まで、連日7日間の釣りを達成するにはどういうものがいいのか。数少ない関連本、バックナンバーを含む雑誌、すでに手元にある本達の複読、ネットの関連情報。思考を紡ぎ、研鑚を重ねた。

 

おそらく、まず、竿自体の重量の問題がある。そこで携帯性やカッコ良さで3ピースで行きたいところだったが、2ピースにマトを絞った。重量が問題であれば、バンブーロッドの世界ではそれ自体を軽くするという点で当然ホロービルドがひとつの回答になる。 

E.C.Powel Bamboo Rod

初期の想像的自慰研究ではこの2点が選択のコア要素となり、ウェスタンリバーでスティールヘッドを釣るのであれば常識ともいえる9フィートから9フィート半をまったく疑わずに選択した。そのほうがホロービルドが生きるとさえ考えた。そこでウィンストン9’(5オンス)に追加して手に入れたのがE.C.パウェル(5オンス半)。ともに西海岸の名竿、これでダメとは言わせない絶対的、伝説的なロッドである。特にパウェルは今をリードする名工ブランディンやウジニッキがベンチマークした革新の元祖。

このメーカーのロッドはあまりにも性能が高く、コレクターと言うよりは釣人に愛され、重用されたがために良いコンディションのものがあまり残っていないと言われる。また、パウエルは短いロッドに道具としての価値をあまり感じなかったらしく、9フィート前後の製作がほとんどというメーカーで、かのスティールヘッダー、ウォルト・ジョンソンも握っている気骨の一本である。

バンブーロッドはストーリーに事欠かない。それは「手にした釣人は一人のビルダーの人生の一部を買っている」というギラムの言葉の通りである。一本一本が工業製品のロッドとは根元から違う。グラファイトのブランクにどんなに装飾を施したところで、それはマネキンに化粧をしているかのようで、バンブーロッドの生の感触とは別のものだとさえ思わされる。(マイザーご免、MKSは今でも自分の“一本”です。)

ところが、だからといって全てが自分にフィットするわけではないし、ともに人生を歩めるわけでもないと言うのが、バンブーロッドにさらに“ライブ”を感じるところ。

ウィンストンとパウエルを振り比べていると、どうにもパウエルの調子が自分に合わない。リズムが合わない。9’6”が長すぎて、それに重さを感じるからなのだろうか。実際の重さはウィンストンのそれとそれほど違わないのに・・・

数ヶ月、時々週末になると繋いで近所の駐車場に出向き、感触を確かめるのだけれど、やっぱり何か調子が合わない。会話がかみ合わない。ウィンストンのほうが自分の腕を通じて疎通があり、自分には合っていると思わされるのだった。米国のバンブーロッドのフォーラムでE.C.パウエルを再調査し、絶賛を何度も目にして、何とか気持ちを収め、次のシーズンに向かうことになった。

Edwards Quadrate Bamboo Rod

そんな中、カナダの釣行前に訪れたサイトで、一本のロッドが偶然、まったく突然に呼び出された。それは8フィートで、いままでスティールヘッドに検討した竿よりかなり短く、自分が日本の渓流で使うハーディのバンブーロッドと同じ長さで、見紛うことなきエドワーズ・クアッドでありながら、なぜか5インチに及ぶ着脱式のファイティングバットが付いているサーモン仕様の業物だった。当時のエドワーズのカタログには見当たらないスペックである。高番手に属するために、買い手が付きにくく、値段は手が届く。

早速コンタクトを取り、幾人かと競合したらしいけれど、「これはアンタに譲ることにした」との返事。届いてロッドケースの中から滑り出てきて手にしたとき、打ちのめされてしまったのだ。その奇抜で変則なデザインに。(「アメリカンバンブーロッドの今まで」の著者と同じく、打ちのめされる、まさにそんな感じだったのです。)

リールシートはウッドのバレルだけれど、そのウッドにタップでネジ山が切ってあり、リールをロックするスクリューはチェックと同じくデルリン製。耐久性を考えれば到底こうはしないだろうというマテリアルの組み合わせで、すでに製作から56年以上の時間が経っているのでやっぱりウッドバレルにはうっすらと縦にヒビが入り始めている。エドワーズ独自のホワイトのインクで描かれたインスクリプションは四面のブランク上で泣きが入るほどに独自性を発揮しており、1955年製作、そして売り手によるところのエドワーズの近所に住んでいた釣人のために製作したというその釣師の名前が記されている。(1955年はビル・エドワーズがロッドビジネスをたたむ1年前の製作になる。)

 

Skeena Steelhead Winston Bamboo Rod

2011年。バンブーロッドを携えての挑戦二度目。今年こそは2年間塵積もったバンブーロッドの期待を具現化するとき。そう念じて成田を飛び立つ。このときスペイロッドとともに3本のバンブーロッドがケースに収まっていた。

けれど、川に着いて森々から集まる力強い流れを目の前にして、早速及び腰になる。一年前を考えれば、丸数日分の時間を竹竿とともに過ごし、ようやく一回掛かったのみ。連れてきたマイザーMKSスペイロッドがウィンストン、パウェル、エドワーズのどれよりも際立って頼りになりそうである。それでもエイヤで弱気を断ち切り、自分との相性を考え、ウィンストンがベスト、これ以外にナシ、と気負って流れに向かう。そして釣師ゆえに“釣り”に走ることになり、実績あるスペイアウトフィットとの融合を考えてティーニー130のシンキングラインを組み合わせた。

スペイで達成してきたキャスティングのイメージをここに持ち込むとラインが乱れ、竿の動きが乱れ、次いで心も乱れる。だから、射程距離を定めてそれ以上を狙わず、とにかく丁寧に釣りができるように気持ちを縛った。

スウィングは今まで釣りをしてきたようにフライをリードし、魚とのコンタクトに間違いなく近づいている感触を伝えてくるのだが、一方で以前の釣りの半径が半分になって竿がバンブーロッドに変わっただけとも見える。そう思いつつも、程なくしてスティールヘッドはウィンストンに載ってきてくれたのだった。

この旅で、前半は全てウィンストンで過ごした。幾つかのファイトを得て魚を手にしたのだけれど、竿の秘める力で戦おうとせずに絞り込めず、竿が折れる前に気持ちを張ることができず、曲げてナンボのフライロッドを曲げないように取り込むという弱腰になってしまった。

一方でどうしても釣りたいがために、使ったラインもフライも、どこかバンブーロッドと一体にならないチグハグで、ここ一年描いていたバンブーロッドによるフライフィッシングの原風景とはずいぶん離れているとしか言いようがない。パウェルとエドワーズは?この釣行でロッドケースから出ることなく、一度も継がれることなく、帰国した。

 

ようやくバンブーロッドの釣りで魚を得たとは言え、心残りは先に記述したとおりである。9フィートのウィンストンはとにかく魚を取り込むことはできたけれど、ティーニーのラインを水中から抜いて次の動作に移るのに重労働が重なり、また、まったく結果が出ずともフローティングラインでドライやヒッチを試している数日も、握る手の平にはじまって、腕、肩にも疲労を注ぎ込んでくるので、一体どうしたらスティールヘッドの現場でバンブーロッドともっと深く付き合えるのかと再考するしかない。

やはりホロービルドと2ピースの他に必要な、竿の重量を軽減する第三要素は長さしかない。長さがどうにも気になった。竿が長ければ長いほど手元から離れて運動するラインの負荷があらゆる動作でより大きな負荷になる。逆に短ければその負担はきっと減る。

中古市場の選択肢の中からアフォーダブルとはいえ数十万注ぎ込んで、なおもバンブーロッド熱は収まらず、相性が違ったロッドは売りに出して、次なる釣人に生命を与えられんと願いつつ、今度は9フィート以下を狙ってネット上を渡り歩く。

早速、8’11”のごく初期のウジニッキの出品に釘付けになり、誰も入札がない1週間にとてつもなく思い悩んだ。ウジニッキといえども#7/8クラスのビッグバンブーは値段が1200から1500ドルであることが多く、高級なグラファイトにちょっと色が付いた値段で買えることもしばしばある。幾度もブラウズして覗き見るうちに、落札なしで終わり、再び出品されたのを確認してパウエルを売りに出すのと同時にウジニッキを買いに走った。

届いたロッドは初期のものとはいえやはりウジニッキらしく、とても軽く仕上がっていて、小ぶりにまとめられたグリップ周りが雰囲気である。早速繋いで近所の試験場にそそくさと出かけていったのだが。

現代の名工の作品はやはりソツのないアクションで、ウィンストンともパウエルとも違う調子を手元に感じた。切れの良し悪しは使い手との相性だから、ここでどう言おうとも、ある人の手によればそれは生き生きとしてくるもの。会社の採用と同じで、そこでダメだからといって何処の会社でもダメとは限らないし、そこで大活躍でも、あるところではまったくチカラを発揮できないことはときどきあることである。このウジニッキはパウエル同様、合わなかったのである。スペックは考察通りのモノでも、一日12時間の釣りを一週間続けるとき、手に握っていることはできないと感じた。小さいグリップに一日の終わりに手に残るであろう疲れを想像した。そうとしか言いようがない。バンブーロッドの深淵はこういうところにも感じたのだ。グラファイト以上に調子の硬軟遅速を精妙に創り出せることは多くの人が語っているところだけれど、たかだか3本、実際に手にしてはやくも幾百層の深淵をうかがい知ることになってきた。

 

中古市場での幸運に期待を継続することは一時止めにして、今度は現役で作っているビルダーのサイトを彷徨いはじめた。ビルダーのラインナップに自分の導き出した3つの要素が織り込まれた一本は存在するのか。思い当たるKEY WORDを組み合わせて検索を続ける。さすがにお値段が手の届くところにないことが多く、またトラウトロッドが中心で、バンブーのビッグロッドをまじめに作っている人はかなり絞られた存在である。

 

そんな中、一つの、非常に興味深いサイトに出合った。SPINOZAは当今のVERY BEST MAKERとも称されるマーク・アロナーのサイトである。サーモン・スティールヘッド・ロッドで検索をかけているうちに行き当たったFROM THE WORKBENCHにはとても示唆に富んだコメントが綴られていて、考えていた二つのコア要素にあらためて付け加えた第三要素になるもう一つのことが書かれている。

Kispiox River

サーモンロッドは長くなければいけないのか。アロナーのブログには他には一切発見できなかったユニークな視点があり、彼の製作するサーモンロッドのコレクションには6’9”からはじまるショートロッドがラインナップされていて、そのショートロッドがメインであり、9’はウェストコースト・フェイバリットと分け隔てられている。東のサーモンは違うのだろうか。

 

リー・ウルフは雑誌の記事で紹介されているように、ショートロッドでサーモンを釣り、ノーロッドさえ試行した。またある別の釣人によれば、ショートロッドが男の遊びの究極であると言う。それはマイノリティが試行した冒険だろうか。現実とは距離があり、ましてや現代では伝説としての存在であるかのように、誰かが実際にやっているかとなると聞き及んだことがまるでない。しかしそれは実際にあった話。すっかり外野がその世界に別のスタンダードを持ち込み、一つのフライフィッシングのスタイルを過去のものに作り変えてしまっただけかもしれないじゃないか。

自分のロッドを全て並べてみると、エドワーズがそこにある。これがもっともアロナーのサーモン・ショートロッドのコンセプトに近い。あまりの見事な出来栄えにバンブーロッドの釣りにしっかり慣れるまでは出し惜しみしたのと同時に、スペイから持ち変えるのには8フィートという短さが不安で、シャフトの細さが貧弱で、前回のカナダでは川面に登場することすらなかった。

 

「アメリカンバンブーロッドのいままで」で日本でもすっかり馴染みになったエドワーズ。著者同様、私もすっかりビル・エドワーズのクアッドに叩きのめされてしまった一人である。六角が竹竿の常識と日本では長い間思わされてきたけれど、その四角のバンブーロッドのエキゾチック、ワインディングチェックにデルリンを施す奇行、父から繋がる数段の細巻シグネチャーラップ。どうしてもエドワーズが欲しくていろいろあたったが、ネット上の様々なコメントからトラウトロッドと言えどもそのほとんどは日本の渓流魚には圧倒的に強力なアクションのようである。カタログに出ているサーモンロッドのシリーズとなると一気に9フィートから10フィートの長尺になり、手にしたウィンストン、パウェル、ウジニッキより2オンスからの重量増になる。一度ブランディンにこれらのエドワーズ・サーモンロッドを尋ねたところ、「スキーナ周辺で片手で一日中振り続けるには重すぎる」と回答された。

そんな中で購入することができた手元にあるエドワーズ・クアッドはもちろんホローではない、ソリッド・ビルドである。実際の竿の重量は8フィートのせいでおそらくウィンストン9フィートと同じくらい。けれど振り心地は明らかにライトで、腕の運動ストロークも短く、クアッドのせいか力強いループが出る。テーパーの基礎はカタログ上の#43と思うのだけれど、サーモン仕様なのでおそらくティップは太め、ゆえにWF8ラインを問題なく、普通に跳ね返す。それでもこうした地上での実験は現場で水に入ると全く違ったものになることがあり、このエドワーズも実際は根元がひしゃげ、穂先がお辞儀しやしないかと半疑が残る。けれど、やっぱりアロナーのロッドコンセプトに近いのはこれだ。次回これを使ってみようじゃないか。

 

キャスティングに、フィッシングに、軽快感を生み出すのはロッドであり、ラインである。そしてもう一つ。フライのサイズ。今回はここにも拘ってみた。せっかくスペイロッドから切り替え、バンブーロッドのシングルハンドでBOLD APPROACHしようと言うのだから、カナダの時間で使い切りたかった。フライは水の抵抗をしっかり受ける。スペイロッドならいざ知らず、イカやクラゲのお化けのような“侵入者”を結ぶのではなく、小型のフライで釣ることに決めた。このフライの小型化はきっと何百回のピックアップ、何百回のキャスティングを軽くしてくれることだろうと想像した。

スティールヘッドの釣りを考えれば天候と水の変動は避けられない。だからスティールヘッド・フィッシングの極地とも言えるドライフライの釣りを目指しつつも、バランスよく釣りを成立させるシンキングラインも検討した。前回のティーニーラインの課題を乗り越えるべく、バーサティップラインに切り替え、WF8Fが綺麗に飛ぶのであれば、ティップシンクではリスクを減らすためにWF7で用意した。

こうしてまた日々が経過する。

 

いよいよ三回目のトライアル。2012年。

散々思い悩んだ挙句、やはりスペイロッドをはずすことなく、ウィンストンとエドワーズをロッドケースに収める。せっかくの旅ががんじがらめにならないように。そして、ちょうどその頃から出てきた職場での周囲の声に応じて、何かといきりたつ自分自身を戒めるために「Study to be quiet...」を言い聞かせるようにする。この名句は釣師なら多くの人が知るところだけれど、自分は知ってからの二十数年、釣りの現場で一度も頭によぎらずに過ごしてきた。まだ若造で、血気盛んな狩猟者で、愚行は今のうちにやっておくべしと言わんばかりに、何よりも前に、何よりも多くをめがけて、気持ちばかり走らせてきたのかもしれない。この旅では変えてみたい。

 

この土地に来て15年目。まず川に訊くには馴染んだ道具で。バンブーロッドに気が狂っていたここ3年を一時脇に置いて、迷わずスペイロッドを取り出して流れに向かう。天候が恵まれたせいもあって、川はそんな自分に応えてくれて、数匹のスティールヘッドを手にすることができた。スペイはスペイ。空中を流れるラインが手にもたらす重みに、道具とのエンゲージメントを感じて楽しく過ごした。  

三日目にようやく竹竿である。ここで迷わずエドワーズを取り出す。前回出し惜しみ、非力を想像して不安をぬぐえなかったが、今回はそれがあったとしてもとにかく使ってみる。フライフィッシングはリズムである。それをそれなりに刻むには環境と道具をよくよく掴むこと、そして釣師の心理がそれらに共鳴すること。

 

フローティングラインの使用感は想定できるから、前回の課題をまず乗り越えておいたほうがよいだろうとシンクティップからスタートする。シングルハンドのバンブーロッドでの釣りはスペイの5分の1のチャンス。慌てないで行く。けれど、やはり、シンクティップは容易には扱えず、ティップを忙しく交換して試行を繰り返す。けれどなかなかエドワーズはノッてはこない。バンブーロッドの初日は丸一日13時間、魚とのコンタクトがなく日が沈んだ。