水面に突如現れる大きな白い口。波を立てて襲い掛かる様。渦を巻いて飲み込まれるフライ。水面下を泳ぐフライの想像とはちがう、見えるということの凄さ。スティールヘッドが水面のフライに向かって出てくる様子が目に焼きついて離れなかった。そればかりを考えて、なおかつ昨年は来ること叶わなかった。一見穏やかそうに見えつつも、気が狂いそうにもなる。

 

そして。

二年越しで考えつつ、歩く道はコンクリートから玉石の河原に。視界に連なる建物の群れは森の木々に。太く重い東京の人波はスティールヘッドの棲む水の流れに。そして習慣病であるメールチェックのiPhoneから、ようやく、バンブーロッドが片手に握られることになった。

この気候、この水位。まさに思い描いていた自然の流れに、ちょっと半狂乱を伴わずにはいられない。そうして初日から狂ったようにフライを投じるのだ。そうしないではいられなかった。わかりますでしょう?

ところが。なんと。まったく。魚は一度も顔を出さないのである。邪念が竿を伝わって水中に放電しているせいか、絶好の機会と目される初日は何も成果が得られずにあっという間に暗闇に落ち込んでいく。まさかと思いつつ、ヤッパリ、とも思う。スティールヘッドの釣りが始まったのだった。

Edwards Quadrate Bamboo Rod Skeena River

今年は前回の反省を踏まえて、ショートシャンクのフックにドライフライを巻き上げ、さらにドライに襲い掛かりつつも捕らえなかった魚にバックアップで投じるブルーチャームやパープルキングもショートシャンクで用意している。掛かった後に自信を持ってバンブーロッドを張りたく、最大の懸念事項であったフックを全面的に変更して臨んでいる。

ライン、リーダー、ティペット、全てを合わせて道具としての一体感は間違いない、はずである。もし何かがおかしいとすれば、今回かぶってきた帽子のせいか。あるいはサーマルウェアが新しくなったせいか。背中にカイロを張り忘れたせいだろうか?腰痛の薬を飲み忘れたせい?イヤイヤ、そんなはずはないと思いつつ、釣りと直接関係のないことばかりが気になってしまったりする。

翌日はおとなしく初心に戻ることにした。

スペイロッドを取り出し、シンクティップをセットアップする。するとどうだろう、早速魚は掛かり始め、午前中だけでけっこう良い釣りになり、このままではバンブーロッドでかけるべき魚まで全部掛けてしまうのではないか(そんなことは絶対にありませんが)と悪い妄想が頭に沸き起こって慌ててロッドを竹製に交換しに戻ったりする。

果たしてドライフライを使い続けたら、どれくらいのスティールヘッドが反応してくれるのだろうか。もし魚が掛かる数を比べたとすると、ウェットとドライでは倍くらい違うんじゃないか。もしスペイのシンクティップとバンブーのドライを比べたら、さらにその3倍の違いが出そうな気配が昨年あった。今年の結果を通じて、同じくそう感じないではいられない。つまりバンブーのドライ対スペイのシンクティップは1:6かもしれない。それでもドライフライで。なんとしても。

3日目。この日も当然早朝から出撃する。前の2日は殺人光線と呼びたくなるドカッ晴れ。この日は薄曇りで、時々小雨がちらつく明らかなLow Light Condition。

今年は人が多い。休みなく、アクセスできる場所の何処もかしこも数時間おきに入れ替わりで釣人が入る。朝、大きなランの先頭にはすでに人が入っていた。仕方ないので200mあけて下流側、テールウォータに入る。前日スペイで釣った幾つかのランではヘッドウォータのほうが結果が明らかだったゆえ、あまり期待せず、本日のバージンウォータを釣ることにした。

一歩一歩と核心部分に近づきつつ、1時間以上釣りをしただろうか。そこに静かに、真に静かに、鼻面を水面に持ち上げてフライを押さえて泳ぎ去ろうとするのが現れた。

前日、強い日差しの下でドライに出てきた魚が実はいた。2回。いずれも緩い流れの中で、小さいグリースライナーを使ったのだけれど、どうも掛かり切らない。ウェットに切り替えてそれらの魚は対処したのだけれど、ちょっと違う。贅沢だけれど、違う。そこで今朝は小さいボマーに切り替えて、どこかで読んだ「チュウイーなフライはスティールヘッドはかじって離さない」という言葉を想像しつつキャストを繰り返した。この魚はフライをしっかりと咥え、おそらく水中でモグモグした上で、フックは顎を捕らえたのだと思いたい。

 

このたった1匹によって、とにかく使い続ける自信が沸いてくる。同じ流れにフライを投じて、リラックスして水面の小さな細波を眺めていたところ、どうだ、今度は背ビレを出して水を切り裂き、新たに襲い掛かってくるヤツが現れるではないか。波を立てて突進し、フライの周辺で渦を巻き起こし、捕らえられなかったフライは岸に向かってそのまま泳ぎ続けて岸にかなり近づいたところ、数メートル先から再び水が盛り上がってフライに向かって波が立ち、ついにグッと手元に重さがかかってきた。まったく!

ドライフライによるスティールヘッド劇場。バンブーロッドの射程内で起これば特等席で見ることになる。特別な世界の話ではないし別次元のフライフィッシングでもない。ドライフライを使い続けられるか、どうか。それだけが入場券です。

Skeena Steelhead Edwards quadrate Bamboo Rod Hardy Zenith

追記。

そう言いつつ、集中力を切らさないで続けるためには自然は良く読んだほうがいい。

今年はとにかく振り続けてみた。どうにもならないときはスペイロッドを握っていたけれど、極力、バンブーロッドとドライラインのセットアップを使い続けてみた。初めの頃、不安と心もとなさで握っていたシングルハンドのバンブーロッドも、次第にこの釣りを味わい深めるための道具としてなくてはならない、これでなければならないモノになってきている。

今年は7つのスティールヘッドを水面に誘い出した。中には複数回フライに来た魚もあったから、興奮は10回以上を数えた。朝、夕、曇り空、そしてシャロー気味の流れ。そんな中で魚は現れた。濁りが多少入っていたときにも出てくることがあった。また、増水した後、水位が安定したり、下がっていくときには、水が多くても反応がないわけではなかった。

一方、晴れの日中、3フィート以上の水深、増水傾向。こういうときには反応が得られなかった。特に増水に向かっているときはスペイでも反応が得られないくらい周辺の釣人にも釣れている様子が見られなかった。今までの経験通りと言えば、その通りである。そういう時はどうするか。以前は悪条件でもDIE HARDに釣りを続けたけれど、今はちょっと違う。天気がよければ裸で河原に寝転ぶか、増水傾向であれば早めに帰って焚火を眺めつつ、ビールをあおって過ごすのが楽しくなってきている。