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ここに来て以来10年が経った。相変わらず先進国経済の何かが入り込もうとしつつ失敗し、また先進国の病が入り込もうとして、それを止めようとしているようであった。

ずいぶんいろいろな店が閉まっていた。アイスクリーム屋、お土産屋、レストラン、大型スーパー、ガソリンスタンド、銀行、インフォメーションセンター。こう列記すると、この町にある商業のうちほぼ半分近くがなくなってしまったかのような衰退ぶりである。ロバートにこのことを尋ねると「来年はここには俺たちしか住んでないよ」と。

生き残っているのは酒屋、レンタルビデオ屋、ランドリーショップ、数件のガソリンスタンド、数件の食品スーパー。他にどんな仕事があるのか、若干15歳の将来有望な若者に尋ねたら、携帯電話のアンテナ建て、鉱山で砂金やモリブデンの採取、そしてロギング。ロギングはすっかり止まっているだろうと聞き返すと、「いや、だんだんよくなってきていて、この調子なら12年後には木が切れそうなんだ」と気長なことをおっしゃる。なかなか。タフです。

そんな小さな町に昨年までは見かけなかった野立て看板が大きく2つ。「ヒッチハイク、リスクをとってするほどか?」と、先進国の病、性犯罪防止警告が田舎の風景に浮き立っている。何でも過去20年間、プリンスルパートからプリンスジョージの間で27名の女性が行方不明になっていて、そのことごとくがヒッチハイクのせいである考えられているという。今回確かにパトロールカーを毎日見かけており、釣りの合間を縫ってドライブで移動中に見かけるくらいだから強化は本当といえそうである。今年は2006年末から続いた大雪が川の流れに直接影響し、スキーナ水系はどこもフラッドだったとのことである。見せてもらった画像によれば、川岸の林まですっかり水没し、あのなじみのキャンプ場も水に浸っている。あの流れは向きを変え、あの石は見えなくなり、毎度魚を掛けたあそこはどこへやら。。。一から探索し直さなければならなかった。

洪水は治まっているとはいえハイウォータは継続していたし、バークレーとキスピオクスが泥を巻き込めばそれらを束ねるスキーナも当然アウト。いつかこういう日が来ると思っていたけれど、いざ眼下にそんな流れを望むと、失望、落胆はどこに持ってゆけばいいものか。。。

1日、2日と躍起になって竿を振っても、うわさは本当で、魚の反応はピクともない。水のせいだ、遡上のせいだとトドメの理由を挙げに掛かるのだけれど、もう一度自分を外から見れば、体だけがここにあって心まで川辺に着いたとは言いがたい性急さで過ごしている。この2日間はまだ東京のオフィスのストレスの元にあり、自然に対する眼力もほぼ死んでおり、、落胆といっても、あのうかつで気軽なものだろうと思い返した。

3日目、リアルに現実を受け止め始め、そして午前を過ごした後、さて自分が魚ならどこにいようかと思って頭にひらめいた残された唯一の場所へ向かう。さらに気分を変えて新しい釣竿も取り出す。

新しい道具はなかなか慣れないものだけれど、今年1度も釣りをしていない代わりに近所の水辺でスペイキャストの練習に励んだおかげで、数投の後には調子が出てきた。さ、いるならここだゾ、と思ったとたん、指先に川の流れとは違う波長が伝わってきた。

やっぱりいた、やっぱりいたのだ。これを確認したくてここに来たんだ。この川は終わっていなかった、ここの自然は死んじゃいなかったんだ。高ぶる瞬間、この飛翔、変わらないこの充実。どれだけ望んだことだろう。あなたならわかるはずだ。どれだけ釣れない時間を過ごし、どれだけ釣りにいけない時間を過ごし、このためにどれだけ時間を犠牲的に過ごして来たかを感じている、あなたであれば。

比べるべくもない。下級の腕比べ、下劣な自慢ごっこ、下賎な情報交換。誰より知っている、誰よりうまく見せたい、誰より釣っている、俺が、オレが、おれが!?そんなのクソ食らえだ。ここでのスティールヘッドフィッシングは自分にとって“生”そのもの。この10年変わらぬものである。

そして、川も変化したいた。