フライの時間

Steelhead Bamboo Rod Dry Fly Sweetgrass

年に一度、特別な旅のワクワク感は釣師なら想像できることでしょう。私の場合それはスティールヘッドの旅になります。特別な時間だから、リラックスして、争わずして、ゆっくり過ごしたいものです。以前スペイロッドを握っていた時には絶対に討取ってやらん、とばかりに出かけていたものでした。今は”絶対に”というのを良い意味であきらめつつ、自分の考える”これぞスティールヘッドのフライフィッシング”というのを楽しみたい。そして1回でいいから旅の期間中に成果が得られたなら、と思っています。それはドライラインで釣るスティールヘッドであり、竿は両手竿ではなく片手竿で、素材はカーボンではなく竹で、リールはハーディのクラシックで、フライはできる限りドライかサブサーフェスのウェットで、となります。

今年(2017)も相変わらずの夢見心地で飛んで行ったのですが、1年ぶりにスキーナカントリーの自然に囲まれて、ちょっとした目眩を感じてしまいました。身を委ねることができずにいる普段のオフィスワークの時間と違って、ここの自然に心も体も寄りかかれる雰囲気を感じ、キュッと固く締まっていた脳髄あたりの神経繊維が解きほぐされて緩んでいくような感覚を覚えます。初めて訪れて以来20年経ったからなのか、20年経ってもなのか、ここの自然が自分は本当に好きなのだとあらためてわかりました。

 

毎度のことながら滞在の半分は増水と濁りに悩まされましたが、とにかくドライフライ向きの流れがあれば、まずドライフライを結びます。ウェットフライをスウィングしている時に水中から伝わるNice Pullも素晴らしい生命の反応ですが、それ以上に野生のスティールヘッドが水面に誘われてくるのを見たいのです。その瞬間の特別感はどの釣りとも違うもので、それをもう一度見たい。フライフィッシングでしか創れない時間と言えばいいでしょうか。

米国の雑誌STEELHEADER’S JOURNALで、テラス在中のガイドが釣師ほぼ全員の本心を率直に伝えています。

「わざわざ大金払って遠くまでスティールヘッドを釣りに来ているのに、どうして確率の低いドライを使わなければいけないんだ?釣るために来ているのであって、時間を無駄にするために来ているんじゃない」

彼はこう続けます。自分の見解はこういったほとんどの人とは違って、スティールヘッドをドライフライで狙うことは時間の無駄どころか、自分の人生にける情熱の一つだ、と。 

同意。地元に住む優位から出た意見としても、同意できます。

 

朝、自然一色の流れの前に立ち、誰もいないのを確認して、その日のバージンウォータに心を躍らせる。お気に入りのBomberをクリンチで結んでヒッチ掛ける。そしてドライフライに出るのはきっとこういう流れだろうというところに静かに、くるぶしが浸かる程度に立ち込む。ウェイトフォワードラインのヘッドが出たくらいから釣りを始め、その日の調子を訊きつつラインを伸ばして行く。白いドライラインが下流45度に向かって伸びてゆく。着水したらラインの弛みをとると同時に手元にワンコイルを保って、フライは流れを渡りはじめる。ヒッチをかけたフライはわずかに横に傾いて、行き先を戸惑うかのように水面を踊る。魅力的な引き波が現れて、毛針周辺に生命が満ちる。キャストのたびにいつ何が起こるかわからない期待に心を躍らせ、岸に泳ぎ着く頃にはやっぱりダメかなあと思ったり。静かに下流に歩を進めて行きつつそれを繰り返していると突然スティールヘッドが顔を出して、ボシュッという水音が起こる。

 

今回は滞在中3回誘い出すことができて、その度に大きな水音に驚かされました。2回は乗らず、1回は手元のラインを放せずに、グンと重さが乗って、それきりでした。ドライフライでは仕留めることはできませんでしたが、それでいいのです。素晴らしいストーリーはそんなに簡単に出来上がってしまうはずがない。そう思いながら、過去に自分のフライに見た光景を思い出しつつ、早速来年の毛針作りに励んでいます。