昨年、パイプを始めてみました。ワイフの父の形見として数本譲り受けたものです。10年ほど保管していましたが、仕事で訪れた愛媛の百貨店の入り口脇に偶然クラシックなタバコ屋を発見し、店主にいろいろ伺ってみました。そして以前出逢ったカメラマン氏のパイプの香りが忘れられず、ついに購入してみたわけです。
学生の頃から読んでいた本に時々出てきたウンチクを元にやってみましたがうまくいきません。今ではYOUTUBEなるものがあり、調べればいくらでも出てきて真似てみても、それでもうまくいきません。中年とはいえやっぱりパイプについては若輩も若輩、せかせかコセコセ吹かしていてもダメなようです。今年の春にバーゼルに行った際に、また別のカメラマン氏と立ち話をしている時にその方がやおらパイプを取り出して吹かし始めたので、トドメの教えを請うたところ、どうやら考えすぎだったようで、言われた通りにやって以降、何とかなりはじめています。
97年にアラスカのアンカーリバーでシルバーサーモンを釣りに出かけました。釣り人の肘が付き合うように並んでいる場所にはきっと魚が入ってたまってくれるので獲物は得やすいのですが、フライフィッシングの雰囲気はちょっと削がれます。川を歩いてゆっくりできるところを探していたところ、ある場所に一人、初老の釣り人がフライロッドを振っていて、パイプをくわえていました。時に川岸の流木に腰掛けて吹かし、そしてまた水に入っていく。夜8時を過ぎたアラスカの夕暮れにその釣り師が影になって口元のパイプが浮き上がり、いい雰囲気だったのを今でも覚えています。
そこで自分もやってみたわけです。スティールヘッドは簡単にはかからない相手です。腰痛やランチも顧みず、川の水の中に立って釣りを続けるのですが、いよいよ50になろうという歳で、インターバルの時間を取らざるをえない体になってきました。
パイプはいいおやつです。バニラが香るタバコを選んだのですが、これが周辺に漂います。1度着ければ15−20分は楽しむことになります。いい休憩であり、いい時間。周辺の木々が滞在中に紅葉していく様子を知覚することができたのもパイプのおかげかもしれません。それに確かどこかでパイプの煙は思索の翼、らしきことを読んだ気がします。釣れずにいるとき、川岸のパイプが次の手法を導いてくれるかも。
喫煙者がどんどん減り、健康志向が横行する中で、おそらくほとんど喫煙者なるものがいないアウトドアメーカーの衣類に身を包んでパイプというのはなんともアンバランスな感じですが、楽しい時間を過ごしました。仮にアゲインストがあっても、釣れない時間を過ごす中で、あるいは釣れた後の充実に浸るのに、この時間はちょっと止められなさそうです。