クラシック

やっぱりクラシックに惹かれます。時間を掛けて1本の針になじんできたデザインは普遍、不変の魅力であふれています「何も変えない勇気」をいつも放っていて、クラシックを使えば、いつでも憧れの時代に立ち戻ることができるかのようです。このフライを結んであの時代を想像し、変わらないあの流れに立って、そしてあの魚を追えば、いつでもフライフィッシングの原点を感じることができるのです。

 

Carron

ある午後、スキーナのグリースラインウォータに向かう途中、自分の気持ちは急いて急いて、押さえの効かない発狂寸前の状態でした。林道のドライブは日本であろうとカナダであろうと本当に慎重にならなければいけないのに、タイヤが滑りはじめていても、その危険はたいて夜寝るころに思出だされて、その時ブルッとくるのです。でも、あの流れを想像するだけでも気持ちは急がないではいられない、気をつけないと。。。

その日、現場についた時には2人先行者がいて、どうやらすでに数匹釣っているようでした。そしてどうやら、現場で出会う大抵の釣人が使うエゲツないフライを使っていたらしい。

そこで私はクラッシックを結びます。先行者が下流の最後まで釣り終わり、水から出て行った後、水面が静かになり、自分だけのものになる。このとき結んだCarronに静かなアタリがあり、オスのスティールヘッドを捉えました。緊張感のあるファイトの後、足元に息絶え絶えになりつつも精悍さえを損なわずに睨みを効かせてきたこの魚をよく覚えています。


Beauly & 帰心

Beauly(下の写真左)は10年位前の英国の雑誌Trout&Salmonに出ている広告で毎月登場していたクラシック。当時は今ほど脚光を浴びてなかったスペイスタイルがとても印象に残って、たびたび巻くことになっていました。

頭のオレンジはエッグサッキングの要素の走りだと思うけれど、そこはアートとしてのクラッシック、「イクラをそのまま刺しました」というふうにはなっていません。

ある年、私は一人でカナダにきていて、シーズンも終盤に近いころだったせいか、連日他の釣り人に会うことが珍しい状態でした。こういうときは心理的にも遊びが生まれやすいものです。フライを今まで結んだことのなかったBeaulyに変えて、膝上くらいの比較的浅い流れを釣ります。釣り人のプレッシャーはきっと弱い、との読みからです。孔雀の羽の微妙な光沢はいつも何かありそうだと思わされるけれど、このときはBeaulyで2回のファイトを得ました。晴れた日のいい釣りだったことを思い返します。

 

帰心(右の写真)は「アラスカ・カナダの旅/予算切れるまで」の際に持っていったスペイフライ。1997年、このとき「旅心」と題して、帰心、慢心、腐心、雄心、執心の5パターンをクラッシックスタイルで創作して、そのことごとくを水に流す旅に出ました。若かったですね、またやろうかナ。

帰心は中でも一番気に入って、当時英国の雑誌の記事に出ていたフリーファイバーウィングのアイデアをいただいたフライになっています。写真ではわかりづらいが、ボディはシルバーフラットのティンセルにグリーンとブルーのフロスを1/5づつ巻いた3色になっています。

帰心が活躍したのは旅の終盤、たどり着いたキスピオクスで泥濁りのハイウォータがおさまり始めたころです。初心者の私が結ぶのはいつも「お気に入りのフライ」しかなかったのです。すでにこの川で初の魚をグリンハイランダーで釣っていた私は、滞在最終日に再び水に帰ることを想像してこのフライを結びました。

スポーツマンズロッジに近い流れに立ってキャストをしていると、1週間ぶりの陽光が差し始め、そして流芯を流れてターンした帰心に確かな手ごたえ。水中からグングン伝わってきた不退転の気力。38インチ、オスのスティールヘッド。写真はカメラの裏蓋を開けてだめになってしまったけれど、忘れられない釣りになりました。

 

Green Highlander

もっともお気に入りのクラシックは?と尋ねられたら、グリーンハイランダーと答えます。このフライはスティールヘッドの釣りではいつも私のボックスに入っていて、釣るためには何でもあり、なんていうことのないように、自分のフライフィッシングに規律を持たせてくれる存在になっています。下の写真はシド・グラッソ風ローウォータスタイルにしてみました。

実はKispioxでの最初のスティールヘッドはこのフライでした。連日の雨と濁りでどうしようもないと思いつつも、釣りに来ている事実を逃さず、川に出向いていました。でも、どうやって釣ったらいいのかもわからない。雑誌で見た「きっとこうであろう」というスペイキャストで、「いるならこういう流れだろう」という場所でフライを流します。じゃあ肝心のフライは?フライは何を使う?初心者は好きにやってみるがよろしいのでしょう。なるべく沈める釣りになって、2匹のドリーバーデンに驚かされつつも、1回、明らかに違う感触が伝わってきました。その日はそれきりで終わったけれど、翌日まで?が続きます。

翌朝一番で同じ流れに立ち、濁ってはいるけれど幾分水が引き始めている流れに向かって生誕100年を越える毛鉤を流します。そして。この魚は見事な跳躍を3回見せ、やっぱりいたんだという興奮でその日は寝るのに苦戦しました。

レディキャロライン

この毛鉤はヘイグブラウンの本の中でも取り上げられているらしく、多くのスティールヘッダーに影響を与えたスティールヘッド・フライフィッシングの開拓者とも呼べるフライ。使われ方も巻かれ方もバリエーションが豊富で、古から現代に至っても、釣人のこのクラシックに対する信用、信頼は相当なものと思えてきます。

ナチュラルトーンでヘロンのハックルを持ったシンプルで完成されたデザインのこのフライは、「静かに釣る」ことが一つのキーワードになっていて、魚がスプーキーな状態ではいつも選択肢の筆頭。ただ、私は、他のフライに比べて登場回数が少ないのです。と言いますのは・・・

地元の人間でない限り、スティールヘッドの釣りではどうしても“サーチ”が最初に必要になってきます。魚の付いている場所、そして魚がどれくらいアグレッシブでいるか、その年その時のコンディション、傾向をつかむために、大きな流れでいきなり線や点の釣りをするほど、旅行者は場所を把握できているわけではないからです。

そうすると、よりアピールするデザインの毛鉤が頻出することになってしまいます。ただし、これだけではどうしようもない状況があります。ローウォータでジンクリア。必ず自分より先行の釣り人がいる場合。魚が何度も追っかけてきているけれどフッキングに至らない。そういう時持っていたい、それがレディキャロラインです。

その他

以前川岸で出会った釣人に私のフライを見せたとき、「アトランティックパターンだ」というコメントが返ってきました。これでは釣れないよ、そう言いたいようです。「スティールヘッドパターンではアトランティックを釣ることができるがアトランティックのパターンではスティールヘッドを釣るのが難しい」というのを聞いたことがあります。しかし、スティールヘッドパターンは魚にアピールすることを主眼にした、釣れる機能優先とも言いたい無骨さで、ある意味えげつない感じのものが多いように思います。それらは多くの場合アートの要素に著しく欠けたデザインで、とても好きになれないものもあります。ラインに結ぶ気になれません。

アトランティックサーモンのフライの世界と比べるとフライ発祥の国民性の違いや歴史の深さがデザインに現れているようで、主役のスティールヘッドまでアトランティックサーモンより劣るのかと思えてきたりしますが、そんなことは断じてありません。スティールヘッドの世界でもっとも注目すべきパターン、それはスペイフライでしょう。当初から多くのスティールヘッド開拓者が長いハックルの動きに一目置いて、スペイフライの力を見抜いた釣師達は次々にクラシックパターンのスペイバージョンを作り出しました。

左の写真はスウィープのスペイバージョンとオリジナルパターン。ダークカラーのスペイフライはスティールヘッドの基本中の基本として必ずFLYBOXに忍ばせておきます。

 

Syd Glassoという人がいました。

Father of Steelhead Spey Flyと呼ばれ、スティールヘッドの世界におけるスペイフライの開拓者です。そしてフルにドレッシングされたクラッシックパターンの世界でも別格とも呼べるクウォリティのフライを製作しつづけた第一人者でした。

そのGlassoがオリジナルとしてスティールヘッドのスペイフライをデザインしています。単なる簡素化ではない華美にならない現実的な簡素化。クラシックが持つ美を継承したフォルム。全編にわたって細部にマテリアルの動きを意識した工夫が効いていて、スティールヘッドのスペイフライの世界で基準となるフライになっています。

Syd Glassoは独自の絶妙なバランスを持っていて、どこかのコピーとはいつも一味違うバランスで仕上げてきます。これはタイイングとフライ自体に相当な造詣がないとできない“遊び”と思います。そのSyd Glassoがひとたびフルドレッシングのフライを巻くと格別の仕上がりに。私にとってSyd Glassoのフライほど見るのが楽しいフライはありません。皆さんもぜひ一見を。

Steelhead読本にある「Advanced Fly Fishing For Steelhead」 「Fishing Atlantic Salmon」に多くのSyd Glassoのスチールヘッド&サーモンフライが出ています。