Speyは伝統

釣人なら誰でも、なんとか魚の泳ぐ流れにフライを届けたい、理想の深さに流したい、理想の状態でフライを送り込みたいと思うものです。となると、魚のいるであろうところより向こう側まで飛ばしたいし、状況に合わせて沈むラインも使いたい、いろんなフライも届けたい、しかも、ラインが絡まずに、フライが痛まずに。

これをシングルハンドの釣人が達成するとなると、ラインもフライも制限がひどくなってきます。なんとかキャストを達成させようとチェストハイ・ウェーダーの機能目一杯の水に入ろうとなりがちですし、浮き足立った格好で魚の生活圏に完全に入りきって釣りをするのもいかがなものかと思えるくらい、さっきまでそこに魚がいましたよと言いたいくらい、深くまでウェーディングをしてしまいます。

飛ばしづらいラインと飛ばしづらいフライを結べば結ぶほど、ラインのトラブルを回避しようとすればするほど、距離を出すことが難しい分、どうしても奥の流れに足を踏み入れてしまう。これは冒険と言うよりは無謀、無礼に見えるてしまうくらいです

Skeena Spey Fishing

スペイフィッシングではシングルハンドでは強いられそうなディープなウェーディングは初めから目的としていません。それでいて先に列記した釣人が成し遂げたいこと、たとえば、より遠くへ、各種フライを、各種ラインで、トラブルを最小に飛ばす道具立てになっていて、しかもそれらの道具達を調和させる技法になっています。

スペイ熱は世界中に広がって蔓延していますが、やっぱり相手になる魚がこれくらい強力かつ見事であるカナダでは、なおさら価値を深めますし、こういう魚をこういう環境で追い続ける限りは、よほどヘソ曲がりが揃わない限りこの釣りはなくならないであろうと想像します。

しかしこれは至極当然の事です。

スペイは効率性や攻撃性をいたずらに追求した最近のアイデアやコンセプトではないのですから。古くから伝わっている、鮭釣りの伝統釣法です。だから行動様式もサーモンに似ているスティールヘッドは当然“スペイ”という技法がすばりハマる環境に泳いでいます。

ところが一方で、“竿は軽く、そして強く、飛ばすのにエフォートレスでロングディスタンス、より効率的、より攻撃的に”などと叫ばれると、釣人の優位ばかりが強調されて、フライフィッシングという様々な規定を強いられる釣りをあえて専攻する者にとってはかえって胡散臭く、うっとうしく思えてきたりします。そこでヘソ曲がりの釣人は、だったらあえてスペイになんか手を出してやるものかと言いたくなるかもしれません。

 

シングルハンドでテスト

2004年、8回目のキスピオクス・スキーナの旅。スペイロッドは自宅において、シングルハンド#9&#10を連れて行きました。まったく新しい視点の冒険をしてみたかったのです。今までライフルを担いで彷徨し、川を見渡していたのが、今回は腰に挿したリボルバーで近場を警戒にあたろうという感じです。

今までの旅の中で、実は、よくよく目を凝らしてみれば手の届く範囲、つまりシングルハンドのベーシックなキャスティングでこなせる範囲にスティールヘッドは相当泳いでいるのではないかと疑っていました。けれど、どうしても大きく広く探って、どこかで当たたってほしいと願をかけたくなってしまいます。ただでさえそんなに釣れないのに、もっと条件を制限しようというのだから、短い竿で釣りをすることは年1回を楽しみにしている自分にとって手が震えんばかりの挑戦でした。

でも思い至ったのは、スティールヘッドのフライフィッシングにどうしても別の視点がほしかったからです。そしてどうなるかわからないという不確実に対する興味。この時は、釣れないことを覚悟しました。そしてわずかばかりの結果を出しつつ、スペイフィッシングの意外なメリットが明らかになってきました。

Rod SAGE RPLXi 9f #9 3P ともに20lbクラスでも耐えうる竿。事実そう感じた。フライも#0/1サイズまで問題なくキャストできる。若干のウェイトを入れたフライでもある程度は問題はなかった。
St.Croix 9f #10 3p
Reel Fin nor #2 Direct Drive 片方にシューティングシステム、もう片方にフルフローティング。ともに走り出しがスムーズでファイトに問題はなかった。ただし両方コルクのディスクで氷点下が続いた今回、若干の濡れでも凍り付いて回転しなくなることがあり、魚がかかる前の時間は手でスプールの回転を確かめつつの時間が続いた。
Abel Big Bame 3N
Line Flat Beam Shooting シューティングヘッドはフローティング、インターミディエイト、タイプII、タイプIII、タイプIV、550Gを用意、すべて試した。キャストの飛距離は十分、使用したのはタイプIII以下の軽いライン。これ以上の重さは必要ない深さだった。
Full Floating シンクティップをタイプIVで12f、550Gで9fで用意した。そして万一のためにレッドコアも携帯。550Gとレッドコアではまともなキャストができない。レギュラーのキャストができるのはタイプIVで12fのみで状況対応に幅を持たせることはできなかった。
探れる範囲に不安を抱いていた自分は、始め#10のロッドにシューティングシステムで釣ることに。しかし早速疑問が浮上・・・・
 
フライが岸際までしぶとく流れきってくれない。岸際まで流れ、そこで一呼吸おくと根掛りしがち。10月も後半になり、特に冷え込みが始まる段階ではどうしてもボトムを意識したくなる。また今までの経験でスティールヘッドが長い距離フライをフォローし、岸際でバイトすることを認識していたので、どうしても最後の最後までフライは流れきってほしい。しかしこのラインシステムでは最後の食わせが行えない。
フライではなくラインが底を食ってしまう。フライを流す過程でスティールがステイするスポットに泳層を合わせてラインを選択すると、スティールを連れてくるドリフトの途中、あるいはその手前でラインが底を食ってしまい、ドリフトを完成できない。
根掛りを避けて軽いラインを選択すると、魚にアピールする機会が少なくなる。もしこれが9月の盛期の釣りであれば、活性の高いMoving Fishがあり、川はまだ夏の名残でハッチが魚を刺激する様子も感じられ、この問題はぐんと減る。むしろフルフローティングで誘い出すことを楽しみたいところである。しかし10月後半戦はインディペンデントな魚が多く、低水温から静かにステイする時間が圧倒的に長くなるようだ。こうなってくると頭のずいぶん上を泳ぐフライには飛び出してきづらい。(逆に低い水温でも安定してくると魚に動きが出るように感じる。事実キスピオクス・スキーナの11月でもドライで反応があるという。)
まるで1本の棒のような・・・キャストの飛距離はスペイロッドと同じくらい、そしてスイングもきれいに決まる・・・いや、きれいに決まりすぎている!?ここがフルフローティングと大きな差を感じたところ。シューティングシステムはある意味こっちの操作がダイレクトに伝わるといいたいくらい、細いランニングラインと短いヘッドがきれいに、より直線に保たれる時間が長く、遊びが少ない。このダイレクト感をうまく操作に生かすことは自分にはできない。フライの呼吸を感じることができず、ただ流れているかのようだった

事実、私はこのラインシステムでは釣れず、何よりも同行の釣人が2年間シューティングシステムで旅を通した結果1匹も手にできなかったのです。これでは考え込まざるえなくなってきます。

隠れ技?

2日目からラインシステムを刷新しました。バックアップに持ってきたフルフローティングラインにティップをつけたシステムに変更、距離は捨てて狭い範囲をスペイフィッシング同様のラインシステムで釣ることにしました。こうするとキャスティングの距離はグッと縮んで、10-15m、せいぜい20mくらい。今までめぼしをつけてきた近く狭いところを丁寧に釣ることになりました。

そしてすぐに結果が出てきたのです。これはいったいどういうことなのでしょうか。下記、考えてみました。

     

黄色いラインが水面を流れる様子がよくわかる。目視でき、ラインの状態とフライの位置が確認しやすく、したがってメンディングを上流にも下流にも打つことにより、フライのSwimをコントロールしやすい。ドリフトの手ごたえがつかみやすい
複雑な表層流・水面流にフローティングラインが絡まれているようで、スイングがシューティングヘッドのシンキングラインよりゆっくり感じられる。そしてラインが自分の下流でまっすぐに、完全に伸びきるまで、自分直下の最後のターンまで確認することができる。最後の最後のターンでフライを捕らえることが多い経験から、ドリフトが最後の最後まで確認できるのは本当に貴重であり重要。
ドリフトの最中、複雑な表面の流れによってフローティングラインに大小の微妙なスラックが入る。これが実は漠然と水中を泳ぐフライを揺さぶっているのではないか。そしてその揺さぶりが不規則でかつ流れに任されたものになっているのではないか。人工的ではない何かが、大小さまざまなスイングが水中でこのスラックラインによって起こっているのではあるまいか。それが魚に絶妙な刺激を与えているのではないか。
ティップ部分の調整により、スポットにはフライを送り込んで沈め、スイングの最中はティップの沈む層でSwimさせ、かつ適当なティップの選択によって水面のフローティングラインから吊り下げた形が余計な根掛りを軽減すると同時に、岸際までドリフトを可能にしている。10-15fの短めのティップにすることでこのシステムのメリットを引き出し、ティップの種類を持った分だけ状況対応に優る。

 

特に上記③、これは実は今まで何度も目の前を流れるラインで確認してきたことだったはずなのに、シューティングヘッドで再び釣りをするまで何のメリットにも気が付きませんでした。

Skeena Steelhead

ドリフトの終盤でスウィングスピードが落ちて、自分の下流でスラックの入ったラインがほどけて、まっすぐになってゆき、最後の小さいターンを打つその時、今までに何度魚がかかってきたことでしょうか。

ハリー・レミアはフローティングラインしか使わず、かつ、相当ライン操作を行うという話を聞いたことがあります。上流下流に大小さまざまにメンディングするということは、つまりスラックを与えるということなのでしょう。ただ流さない。泳ぐフライ、呼吸するフライのデザインにドリフトの要素が加わってより生命感を増すのだと想像します。

自分が最初になんとなしに気がついて、なんとなしにメリットを感じて、そしてなんとなしに結果が出ている事実から、岸際最後のターン、小さくて微妙なものではあるけれど、その最後の“〆”が利かないようではドリフトを完成したとは言いづらい。最後のこの〆なしで次のキャストをしているのは、完成しない製品を送り出しつづけている工場、凡打の連続。刀は一度きっちり鞘に納めてから再びギラリと一呼吸で抜きにかからなければならない、とでも言えばいいのでしょうか。

しかし、いかんせん2004年の旅はシングルハンド、より適当なキャスティングをするためにはティップの長さ、重さが制限されるし、キャストの距離は制限されます。つまり、釣れる範囲は広角も深度もより限定されてきてしまいます。

これがスペイロッドだったら・・・何度そう思ったか。上記メリットはスペイロッドを使うことで最大化されるものと思うのです。

 

スペイフィッシングにある2つのART

Skeena Steelhead Spey Fishing

スペイフィッシングにはキャスティングのユニークとフライのユニークの2つの芸術的ユニークがあります。この2つは融和されて存在しているので、獲物欲しさに自身急き立てられると、アートを欠いたせわしないキャスティングになるし、アートを欠いたフライを間違えて結ぶことになります。下手をすると並み以下の卑しい釣りになってくるかもしれません。スペイフィッシングに2つのアートがあることを忘れてはいけないと思います。

キャスティングの際に宙に振り出される独自のラインの軌跡はシングルハンドで中空に描く絵とはまた違ったタッチでフライを魚に届けます。驚くほどの魚の強い引きに対して綺麗に彎曲をディスプレイするスペイロッドの妙は長い竿ならでは絵です。

そして、流麗とは別に、どうにかやるしかないコンディション、たとえば強風、たとえば重いシンクティップ、たとえば背後のスペースを消された場所でも、釣りをこなす体力と適応があります。スペイフィッシングはまず、キャスティングのアートがあり、大物を狙い導くスピリットも備えた釣りであることを忘れてはいけません。

もし今スペイロッドを手に世界的にしれた川辺に立っているとしたら、自分が最高潮の興奮を得られる時間を手にしていることを本当に喜べるのではないでしょうか。