ボートシーバス5 春の釣り

最盛期の秋に結構がむしゃらになって追いかけた後、ちょっと休んで、2月の終わり頃に友人と出かけました。この時期の魚は日中は深いところにいてフライでは難しいようですが、夜になるとうわずってくるようで、ナイトゲームにチャンスがあります。この時私はイワイミノーの沈むものやEPミノーでやっていたのですが、どうも友人のゾンカーへの反応が1枚も2枚も上手のように感じました。秋には一度も必要に感じなかったフライですが、春を迎える段になって俄然その違いを見せつけられることになったのです。

その後早速3月にゾンカーを携えて2回出船し、ともに手応えを感じる結果になりました。バリエーションとしてこのフライ(のようなもの)が必須の時期(春)があることを感じます。そしてちょっと驚いたのが、思っている以上に春は魚の活気があり、タイミングが合えばボイルもコンスタントに見ることができたり、最盛期の秋と同レベルに魚の気配を感じることができたことです。3月はバチの季節の入り口になってくるようで、この時は常夜灯周りや明暗がはっきりするストラクチャー周辺にはボイルを発見することができて幸運でした。魚影に関していえば秋に比べて劣っているようには思えないくらいです。産卵後湾内に戻ってきている魚のコンディションは秋ほど腹回りがたくましくはありませんが、十分ゲームフィッシュとしての魅力に満ちています。

ストラクチャーの奥、壁際の暗がり、常夜灯が当たる向こう側の暗がりに向けてラインを伸ばします。ナイトゲームの基本をおさえてキャストが上手く決まり、スムースなリトリーブを心がけてラインを手繰ってゆくと、水面下に見えるラインがククッと引き込まれ、その先で魚がギラリ、反転する。竿を煽ることなくリトリーブを継続して、しっかり魚が乗っていることを確認してから腰を入れて横に向かってロッドを引き込むと、東京湾の野生が伝わってきます。この日は高確率で反応があり、フライはことごとく白やチャートリュースのゾンカーでした。

渓流はまだ始まったばかりですし、東北や北海道は6月くらいまではおとなしくしていたほうが良さそうなことを考えれば、春のシーバスはとても魅力的です。スティールヘッドの釣りが再開できれば秋は遠征になり、シーバスの時間は無くなりそうですが、渓流解禁当初はあまり動かない自分にとって、身近な春シーバスという新しい遊びを発見しつつあり、今後が楽しみです。 

 

シーバス フライフィッシング ボートシーバス

アプローチに関しては季節による違いがあり、それを楽しむフライフィッシングはトラウト同様に奥が深いものです。秋は早朝薄暗い時からスタートして、7、8時の明るい時間でもサーフェスで楽しめますが、春はフライではナイトフィッシングがメインになります。

春の夜は3月にもなれば空気も緩み、4月になれば尚更、2月のように着膨れして鼻を啜りつつ悴む手でキャストを繰り返すこともなく、風さえ上手く避けられれば、凍えることはあまりないと思います。

そして春はバチ対策です。実際コンスタントにボイルに出会った際にボート周囲を見回してもゴカイが泳いでいるのが見えたわけではなく、ただ何かを食べていそうだという感じで、ボイルの感じからもイワシなどを追い回している様子とは違ったのでおそらくバチに反応しているのだと思います!?ネット上の情報ではバチには様々な形態があり、その時の様子次第で魚の反応は大いに変わってきそうですから、今後春の釣りを重ねてゆけば様々痛い目に遭いそうです。

 

道具は秋のサーフェスの釣りと同じものが使えます。春はバチを意識して、特に運河内ではインターミディエイトラインを使い、フライは5−7cmのゾンカーを仕込みます。フライは水中であまりぼってりしない、ボディも細めで水の中ではスーッとなる感じのゾンカーをメインにして結果が出ています。使っていくうちにラビットファーが薄くなっていったとしてもそれがむしろ効果的な時もあるようです。姿勢良く水中で泳ぐようにゾンカーテープはあまり長くなりすぎないように、またゾンカーテープがフックベントに巻き付いたりしないような工夫は必要です。メインとなるバチ対策の他に、バックアップでもう一本のロッドにはタイプ4以上のフルシンキングラインにミノーフライを用意しておくようにガイドは勧めてくれます。特に運河の外に出て行く時やベイトが湾内に入ってきている時など、7ー10cmくらいの鰯を少し下の層で追い回していることがあるようです。ガイドは様々な自然の変化の中でゲームを有効にするアイデアを見つけているのだと思います。ベイトの移動によって状況が変化するなんてソルトウォーターのフライフィッシングらしい。ボートシーバスの遊びを膨らませるのであれば複数のアプローチができるようにバックアップを考えておくほうがいいのでしょう。

春もまた横浜の港、運河内のシーバスが楽しめることに手応えを感じました。秋よりもボートの数はグッと減るし、その上産卵後に思いのほか魚が戻っている。釣りですから当たらない日はもちろんあるのですが、身近であって意外に深く楽しめるフライフィッシング、というのが大都会のシーバスです。何度も書いていますが解禁当初に渓流で釣れる多くの放流魚とは違い、東京湾のシーバスは全てワイルド、全てネイティブなところがフライフィッシャーの心をくすぐります。夜の釣りは当初かなり奇妙でした。暗い中でのフライキャスティングはラインの軌跡が楽しめず、工業地帯の夜景に人間が地球にしている仕打ちを感じないではいられません。目が慣れてくると、暗がりに乗じて白煙を伴ってCO2を排出する巨大な煙突群が浮かび上がってくる。気候危機は未来の釣り人にとっても最重要課題の一つで、今の自分達だけがよければいいというにはあまりにも惜しい、素晴らしい魚が地球上にはいます。東京湾のシーバスもその一つです。ブラッディスポーツと言われる釣りをしつつ、水辺に立つ釣り人ならではのリアルな感覚で遊び相手の魚を通じて危機を感じたならば、私たち自身の行動を振り返りつつ、変えられることからはじめ、時に声を上げ、そして素晴らしい魚たちを後代に伝えないではいられない。と思いませんか?

シーバス フライフィッシング ボートシーバス

   


   

5月中旬に今季、最後の出船です!?

シーバスは秋の盛期が始まりとすれば、今回が最後の区切りになりそう、というわけです。渓流が盛ってくる6月まで楽しめるシーバスのおかげで、フライフィッシング人生に新しく味わい深い釣りが加わっています。狙ったところに打ち込む、誘い出すようにリトリーブする、殺気を消しつつ。ボートシーバスには私が体験したことがない要素が詰まっていて、深掘りしたい気にさせられてしまったこの1年でした。

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当初釣りを予定していた日は潮回りは期待できそうでしたが強風が予想され、フライキャスティングどころではなさそうです。ガイドの鹿内さんの提案もあり、潮回りはベストでなくとも風に翻弄されないであろう日に変更しました。

春は風に吹かれる季節です。フライフィッシングは風を大の苦手とします。従って潮回りがそこそこであれば風の状態を優先して日を選ぶ方がフライフィッシングは楽しめます。変更したその日の潮回りはまだ明るい時間に良さそうなことから、夕方6時からスタートしてサーフェスミノーを試し、暗くなってからインタミやタイプ4で行きましょうとなりました。

風、時間、タイドに関しては釣りに有利なタイミングはあるようですが、それも場所によると。この条件ならこの場所、そうでなければあの場所という引き出しを持っているガイディングで、その時の諸条件でベストな場所が案内されます。この日は運もよく、思い描いたシナリオ通りに明るいうちから反応を得ました。イワイミノーは秋の最盛期がお決まりだと思っていましたが、この日の夕方、魚はアグレッシブに反応してくれました。風が弱いであろう日を選んだおかげとガイドの操船やそのポジショニングから、フライキャスティングは気持ちよく、テンポ良く狙ったところに決まったおかげで、水面直下の誘いにいくつもの魚が乗ってきてくれました。水面にはっきりと現れるボイルは格別で、単なる引っ張りの釣りとは違う、やはり魚がフライに襲いかかるのが見えるというのはこの遊びを特別にします。この時期にできて幸運でした。

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リトリーブも工夫し、早めにしたり遅めにしたり、シングルハンドでやったりダブルハンドにしたり。いくつかバイトを得る中で、この日はシングルハンドで遅めであれば、よりしっかり食うという手応えを感じました。それに従ってやったその後はミスバイトもあるけれどコンスタントに掛かるようになりました。

たかだかリトリーブの話。でも違いを生むのは確かです。緑の自然に映えるトラウトと違って、海水の、シーバスの、しかもマンメイドストラクチャーに囲まれた東京湾の、夜の釣り。となると、繊細でもない、豪快でもない、なんとも言えない中途半端な、ラフな感じも想像されるかもしれません。ですが実際はフライフィッシングの繊細な楽しみをふんだんに含んだ遊びがここにはあります。道具選び、ラインやフライの工夫、実際の釣りに関わるキャストやリトリーブの技術などが現場に応じて高次元で組み合わさって、そして応えてくるのはネイティブ&ワイルドな魚なのです。

 

ある程度の数がフライにタッチするとそのエリアは静かになり、別の場所に移動することにします。シーバスはある意味ヤマメのようで、一度フライに出てくると、ましてやフライに触ったとなると、同じ魚が出てくることはまずないようです。もし同じところから出てきたとすれば、それはそこにいた他の魚が誘われてきているようなのです。すでに他のボートが入っている場合は後に入って早々は魚はまず応えてくれない。なかなかシビアです。ですから上手くその日に有効な誘い方が発見できるように、わずかばかりの引き出しを総動員させて試します。

 

暗くなってきて予定通り道具を持ち替えて、前回好反応だったいくつかを巡りました。インターミディエイト+ゾンカーで工業地帯の水面にところどころ現れる明暗を狙い、ちょっとしたエキサイティングな時間を期待していたのですが、どうもこの日は違ったようです。サーフェスミノーにあれだけ反応があったので、暗くなればもっと多くのチャンスを期待してしまったのですが。。。テンポ良く数カ所を回りましたがわずかばかり反応があっただけでした。特に近年は魚の動向を読むのが難しいらしく、昨日良かったのが翌日はサッパリくらいになることも多いとのことです。以前のように魚が入った手応えが数日続くことは随分減り、当たり外れはより明確になったと。また昨今の光熱費高騰は以前よりも工業地帯の夜を暗いものにし、かつて煌々と照っていた夜の明かりは著しく減ってベイトが集まる場所も減り、つまり釣りに都合がいい場所も減っているというのが現状のようです。

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途中明暗の境に見かけるものはシーバスのボイルではなくメバルのライズで、いくつかのあたりを拾いましたがやっぱりメバルでした。ある程度の結果を期待していたのですが散発に終わり、前回の成功体験はあっさり否定されます。ある程度のセオリーはあるのでしょうけれど、やっぱり一つのやり方がいつもハマるとは限らないのは自然相手のアウトドアスポーツならではです。

 

見切りをつけて切り替えて、少し離れた場所に向かいます。次に狙う場所は10cmほどのイワシを追い回している可能性が高いとのこと。ラインチェンジ、フライチェンジの提案が入ったので船上でリールごとラインをタイプ4に変えて、フライは10cmほどのEPミノーを結びます。この春に出船した際にはすべてゾンカーで結果が出ていたので少し不安がつきまといますが、まずは案内人に従うのが吉です。せっかくガイドボートにいるのに聞かずにいるなんて勿体無い。自身による試行錯誤はスティールヘッド&サーモンで散々苦労してやってきていて、その楽しみは重々承知しているものの、せっかくなのでそうではないプロセスを経て得られるものも楽しみたい。

少し走った先は停泊船周り。船縁を端から端までカバーするのかと思いきや、ここだというところを狙うようにいきなり核心部から。そして見事に、これまた運がいいのか、この場所ではプレゼンテーションが決まっているあいだは必ず何がしか魚の反応があり、お魚釣りならではの心地よい緊張が続きました。タイプ4の灰色のラインは僅かな影になって夜の空中を飛び交います。それはあまり味のあるものとは言えませんが、こういう時にこそ、しっかりフライキャスティングができるかが問われているようにも思います。視界に僅かに見える黒い影を気にするよりは、見えないものを見ようとせず、手に伝わる感触を頼りにしつつロッドのテコとバネが効かせられればラインは綺麗にループを描いて飛んでいる、はずです。この場所で乗ってきた魚たちはいずれも2尺を超える魚で、シーバス釣りならではのトルクのある引きに、やっぱり東京湾の野生は良いものであるなあと。最近海外から日本を訪れる釣り人からの問い合わせも増えているとか。特異な環境に生きるネイティブでワイルドな「東京湾のシーバス」は世界に広がりつつあるのかもしれません!?

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