スキーナの危機

これはそのまま遡上魚の危機と言い換えていいかもしれません。あるいは私たち人間の行いがもたらす地球の危機の一端かもしれません。遡上魚は川で生まれて海に降り、海洋の豊富な資源で大きくなって再び産卵のために川に回帰することは釣り師なら多くの方が知るところです。その旅、大航海には多くの危険が待ち構えていて、サバイバルをくぐり抜けたものが帰ってきますが、それは想像するだけでも途方もない目の眩むような冒険が想像できます。彼らが繰り返し戻り、そのポピュレーションを維持できること、彼らのダイナミックな生態が持続することは、この地球が健全であることのインジケーターになり得る、そう思わないではいられないのです。

私たちの日常は、今現在多くの日本人にとって、平和なのだと思います。ですが経済的にゆとりがないと感じる人は多勢で、何かとそれが最優先事項になる傍ら、自然から搾取する行為が続いて多くが失われていこうとしているのですが、それを考える余裕はなく、あるいはそんなことが起こっていると想像しようもなく過ごしているのかもしれません。危機ってなんなのか?自然が自分を助けてくれるのか?魚は養殖すればいいでしょう?日常生活に何か問題でも?当事者とそうでない人との隔たりは例えようもなく大きな違いがあって、当事者の本当のところに寄り添うことは難しいことです。ましてやそれがどこかの山、川、海、魚のこととなったら尚更でしょう。このサイトに来てくれるマイナーな方はきっと釣り人で、しかも遡上魚に、野生の魚に一方ならぬ関心をお持ちの方だと思います。そういう釣り人は水辺に佇む喜びを真に理解していて、釣り糸を垂れることでそこで起こっている変化を敏感に感じ取り、もし悪い方に向かっていれば、静かなれども代弁者となれる人たちと想像します。ここでシェアする話はカナダの事情ですが、遠い場所といえど同じ地球上で何が起こっているかを知ることで、一歩立ち止まって考えることになればと思います。

スキーナ フライフィッシング

2023年のBCへの旅は釣りもさることながら、微力ながらサポートしているSkeenaWildを訪れて直接話を聞くことが目標でした。この団体はテラスの街にオフィスを構え、訪れた際にディレクターをはじめ5名が仕事をしていました(実際は10名ほどいるようです)。2007年からスタートしたSkeenaWildはスキーナシステムの自然環境にポジティブなインパクトを与えようと奮闘しています。スイスの国土に相当するスキーナ水系に生きる地域住民や生き物たちを含めて、持続可能な、健全な自然を保全保護するために科学者や他の団体と連携し、政府や漁業者とも話をし、時にプレッシャーを与えんと活動しています。今回の訪問では団体のディレクターを務めるグレッグに話を聞きくことができました。

 

スティールヘッドの遡上グラフ

左はスティールヘッドの遡上グラフ(Tayeeデータ)です。河口で各種サーモンの遡上数をカウントしている時点でカナダでは大切な自然の様子をウォッチしてゆこうという気概を感じます。

ご覧のように2023年2021年の最低ライン(約5000)をわずかに上回る程度(1万弱)で、赤いグラフである過去10年の平を大きく下回っていることが一目瞭然です。この理由は多方面にわたって考察されてきたようですが、現在大きく2つ考えられているようです。一つは気候変動、もう一つは他国による漁業です。

気候変動は世界中でさまざまな兆候を示していますが、場所によって現れ方も違い、またとても複雑で、直接的にどこまで影響しているか語りにくいようです。例えば冷水生の鮭鱒族は産卵床で水温1度でも上がれば発眼卵に影響があり、気候変動で今までないような渇水や洪水となれば若魚はダメージを受けやすい。一方で、水温が上がった分川の中は富栄養化になり、餌が豊富になることは魚には良いことになったりもします。海に降ってもそれは同様で、今までいなかった敵に遭遇することも増えれば富栄養化で餌はより豊富だったりもする。ダムのないスキーナ水系でも人間によるグローバルの気候変動の作用が避けられないでいます。こう言った自然の変化に慣れることもあり、慣れないこともあり、時間がかかることなので今後も注視が必要とのことでした。

もう一つのアラスカでの漁業による遡上数の減退はもう少しわかりやすい形で表れています。ドネラ・メドウズのシステムの本に出ているように、人間が行うことは大きなシステムのように動いてゆき、魚が取れなくて貴重になれば高い値段で流通し、だからもっと獲れば商売になるのだと一生懸命になり、さらに減ったところにさらに希少性が増してもっと捕ろうと努力するうちにほとんどその生き物はいなくなってしまうという、自然には甚だ迷惑な経済活動重視の人間による活動によって一向に回復が見込めないループに落ちてゆきます。

アラスカ南西部では鮭の回帰の減退が深刻になり、湾内や島々の間での漁業を規制して保護しようとする一方で、漁業者は自分達の生活のために規制区域の外に出て行って漁業を行うと、そこはBCのサーモンやスティールヘッドが帰って来るルートだったりするわけです。そして大規模漁業は十把一絡げでスティールヘッドまでをも搾取してしまいます。

Chinook(King)

Sockeye(Red)


商業的に価値が高いとされているサーモンはチヌーク(キング)とソックアイ(レッド)と言っていました。上記のグラフ左はチヌークの回帰ですが、2023年は過去10年の平均を大きく下回り、過去3年その傾向が続いています。

ソッカイはスティールヘッドとほぼ同タイミングで回遊し、しかも両者とも比較的表層を泳いでいるということで、ソッカイの漁期にアラスカで頑張れば頑張るほどBCのスティールヘッドは犠牲になります。昨年は4年に一度のBIGRUNで平均を上回っていますが、2021、2023年共に平均を明らかに下回る結果になっています。その時アラスカでレッドサーモンの漁が盛んに行われたのであれば、BCのスティールヘッドは甚大な影響を受けてしまう。そして実際にそうなってしまいました。BC政府はスキーナ河口での漁規制を過去に何度もやってきていますがそれでは解決していないことに気が付き、アラスカの漁業がBCのサーモン・スティールヘッドに与えていることを調査し、具体的に知るようになってきたようです。

アラスカで捕獲されるスキーナのスティールヘッドは毎年全遡上数の10−30%と言われ、2021年は最悪の年になってしまいましたが、概算で戻ってくるべき数の半分くらいがアラスカで捕獲されてしまったのではないかと試算されています。小規模ネットの漁業ではスティールヘッドはその場で海に放り戻されるらしいですが、大規模な網でごっそり捕獲する方法では魚種を選択して漁を行うことは不可能です。残念ながらスティールヘッドはその犠牲になり、尋常ならざる数がスキーナに戻ってきていません。一方でBCの漁船もワシントンやオレゴンに戻るサーモンを捉えている可能性があることから、これはアラスカの漁業者だけの問題ではなく、どう選択的に漁を行っていくかという今後の重要なテーマになっていると言います。

ご存知かもしれませんが、スティールヘッドは守られている魚で、商業目的の漁は禁止されており、市場に流通してはならない魚です。意図せずして捕獲されたスティールヘッドはどうなるのでしょうか?聞けばこれらは漁師の食卓に並べられるか、あるいは廃棄されるという、聞くに絶えない、悲しいことになっているようです。網でごっそり取られた中に例えば今年であれば1000〜4000のスティールヘッドが混じってしまった可能性があり、その全てが漁師宅に持ち帰られるはずがなく、仕方なくほとんどが廃棄されるとういう想像したくなかった現実を知らされました。

Coho(Silver)

Humpy(Pink)


参考に他の2種のサーモンの遡上グラフも掲載しておきます。上のグラフは左がコーホ、右がハンピーになります。商業的価値はチヌークやソッカイに劣りますが、コーホはそれらに次ぐ価値を市場で示していると思います。他のサーモン同様、年によりムラがありますが、2023年はおぼえず当たり年となりました。ピンクも同様、この両種は過去10年の平均を大きく上回っています。これはどうしてなのかを聞くと、コマーシャルフィッシングの場所やタイミングによるもののようです。コーホはスティールヘッドとも被る時期に回遊しているはずなのですが、スティールヘッドやソッカイが島など陸地に沿って比較的上層を回遊してくるのに比べ、コーホは沿岸から離れたところから河口に入ってくることや比較的中層を泳いでくるため、スティールヘッドまで一緒に捕獲されることは少ないのだと言います。

スキーナワイルド グレッグ

一方、私たちが行うスポーツフィッシングのインパクトはどうなのでしょうか。もちろんインパクトは確実にあると言います。特に水量が少なくて水温が緩くなると魚は釣りによるストレスが増大するとのことで、私たちが暑い夏に走れば消耗が激しいのと同じことだと思います。スポーツフィッシングのネガティブインパクトは3、4%はあると見られており、シングルバーブレスのキャッチ&リリースでも川によっては最大10%くらいが釣りによって死に至らしめることになっていると推測されています。私たち釣り人はスポーツフィッシングと認めてもらってやらせてもらっている間に、このインパクトをよくよく考えて行う必要があります。素晴らしい魚の写真を収めたくなるのは私も同様ですが、それを最小限にする配慮はもちろん、近い将来見切りをつけないといけないのかもしれません。

 

今回SkeenaWildを訪問し、ディレクターのグレッグから話を聞けたことはこの旅に今までにない学びの彩りを与えてくれました。釣りをするだけの釣り人でいてはいけないのではないだろうかという自問はこの20年思い続けていたことです。わずかな心の余裕をこの時間に振り向けて正解でした。私のような平和に暮らせているものからすると環境活動はどうしても大げさなものにも感じてしまいます。闘いようのないもののように思えます。ダムの反対はヘルメットや横断幕が頭にチラつく過激な活動のように思ってしまうかもしれません。グレッグには「気候変動やアラスカの漁業のことに立ち向かうのは政治がらみの話も多数あって気が遠くなるような道のりだと思うのですが、どうやってゆくのでしょうか?」と聞いたところ、起こっていることをまず知らせることが大切で重視していると聞いて驚きました。実はそれは多くの人ができることでもあるからです。

次のステップとして、他の環境団体とも連携して政府や漁業者にも知らせ、持続可能な選択的漁業を推進するように働きかけていくこと、アラスカの政府にも働きかけてBCの魚のルートでの7月末の漁をストップしてもらうこと、サステナブルな漁で得た資源を価値の高いものとして流通できるようにキャンペーンアドでサポートすること、さまざま考えているようです。(選択的漁業は商業的に狙った魚種のみを捉えるような時期、場所、方法で行うことで、例えば海ではなく川に入ってから漁業を行うなどさまざま検討されているようです。)

スキーナ フライフィッシング スティールヘッド アイランダー フライリール セージ フライロッド

世界最強のスティールヘッドが戻ってくる川として名を馳せたトンプソンリバーでは絶滅危惧種として叫ばれていた20数年前が現実になり、釣りが禁止になったりオープンになったりしつつ、この10年ほどは禁漁続きです。ここ数年はあの水量に200以下しか戻ってこれていない絶滅状態になってしまいました。彼らが勝手にそうなったのではなく、全て人間が関わってこうなっているのが事実です。ダムのない川でもこういうことが起こる。ダムがあってはそれ以前の話であり、北米でスティールヘッドの釣り人はすべからくダム反対派でなければならない、というキャプションを見ましたが全く同意です。年季の入ったスティールヘッダーから見れば私がその一人とは思えませんが、ダム反対派であることは間違いありません。これと同様に、日本のサクラマス志向の釣り人もまた、すべからくダム反対派であろうと想像します。日本に以前あった見事な、生命溢れる流れを少しでも取り戻せたならと、釣りをするたびに想像しないではいられません。できればフライフィッシャーは全員そうであってほしい。なぜならフライフィッシングは1匹の魚との出会いをより特別にすることができるから、と思っています。

 

釣りをしているからこそわかるリアルなこと、水辺に立って釣りという行為を通じてわかることや感じることは無数にあります。何か大きなことをしなければいけないと思いがちですが、実際はまずこういうことが起こっていることを知らせることが大事で、参画したりサポートするには署名や寄付など、過激とは無縁な方法でも集まれば力になるアクションもあります。私たち釣り人が入る水は私たち釣り人がその自然や魚を代表して、できることをやってゆくのが良いと思っています。